昔から「架空の地図」というものが好きでした。
ファンタジー小説の巻頭や、ゲームの攻略本なんかについてくるやつですね。
全く未知の世界に広がる架空の国や街、それを結ぶ航路や街道・・・。
それらは地図の上ではほんの小さな点や線であっても、読者の心を想像の世界へと駆り立ててくれます。
私はそういった地図だと実測的なものが好きで、特に『ゲド戦記』の「多島海」の地図はマイフェイバリット架空地図です。
他に『氷と炎の歌』や『守り人』シリーズもお気に入り。
実は先日、架空の地図を描く仕事をしたのです。
それがこちら、光文社さんから刊行のハニヤ・ヤナギハラ著、山田美明訳『森の人々』です。
1950年、ミクロネシアの孤島〈イヴ・イヴ島〉に調査団が上陸する。
その中の免疫学者ペリーナは、島の住人たちと彼らが食すカメについて調査するうち驚くべき発見をする・・・。
というのがおおよそのストーリー。
無論この話はフィクションで、島も実在しません。
しかしこの小説がユニークなのは、徹底的にノンフィクションの体裁をとっていること。
本書は主人公の学者の自伝という形を取っていますが、本の冒頭には新聞記事(架空)が引用され、自伝の編集者(これも架空)の手によって序文と脚注まで挿入されます。
何も知らずに手渡されたら、本当にあったことだと勘違いしてしまうかもしれません。
ミクロネシアにある架空の島、そこに棲む生物の生態に迫るノンフィクション仕立ての本というと、シュトゥンプケの『鼻行類』を連想しますね。
ほかにも登場人物の一人の名前がラヴクラフトの小説から引用(多分)されていて、『インスマウスの影』にも南洋に暮らす先住民が・・・。おっと話が逸れました。
今回ウエイドはこの物語の舞台となる〈ウ・イヴ諸島〉の地図を制作いたしました。
さて、この小説の重要な要素がノンフィクションかのようなつくり。
島を取り巻く海岸線や、広がる尾根などはなるべく細かく、真に迫った感じにリアリティを大切に仕上げました。
原書の方はペンとインクで描かれていますが、今回の日本語版ではデジタルで制作し、よりノンフィクション感が強まっていると思います。
というわけで、私もこの『森の人々』を楽しく読み進めているところです。
自伝仕立ての進行なのでまだ主人公の幼少期なのですが、冒頭で彼が解き明かしたイヴ・イヴ島の秘密、そして彼が小児虐待で服役中であることが語られるので、常に不気味な雰囲気が漂います。
主人公の回想によって話が進む点や、名状しがたい正体不明の恐怖感は、やはりラヴクラフトの影響が・・・